西麻布の静かな路地に佇む「merachi」。この舞台を率いるのは杉本功輔シェフ。ミラノやコペンハーゲン、バンコク、そして銀座「FARO」で研鑽を積み、2021年末に独立を果たした人物。イタリア料理を核に据え、日本の食材に寄り添うスタイルは、彼の歩んできた道そのもの。店名の「merachi」はギリシャ語の“Meraki=職人が心を込めて作る”に由来し、さらにイタリア語の“愛情を込めた手仕事”という意味を重ね合わせた言葉。その哲学が、8席のカウンターからもしっかりと伝わる。

最初に登場するのは「アンチョビ」。カンパニア州チェターラ産で、7年半の熟成を経たもの。塩を強く効かせず、優しい旨味が舌に広がる。その横に添えられるのは北イタリアの発酵バター。乳の深いコクと酸味がアンチョビの穏やかな塩気を受け止め、土地の異なる味わいが皿の上で静かに調和。

ブリオッシュの上に乗せた「モルタデッラ」。ふわりと甘い生地にサワークリームを添え、薔薇の花のように折り重ねたハムが咲いている。口にすれば、パンの甘みとクリームの酸味、モルタデッラの塩気が一体となり、ワインとマリアージュしていく。

「馬肉のタルタル」は、魚醤で下味をつけ、サルデーニャ伝統の薄焼きパン「カラサウ」でサンドしたもの。生肉の力強さを発酵の旨味が支え、薄く軽やかなパンが全体をまとめる。素朴な郷土食材が、ここでは洗練された小前菜へと姿を変えていた。

次に現れたのは「水牛モッツァレラと生ハム、静岡メロン」。使われるのは木更津・竹島さんが手がける貴重な国産の水牛モッツァレラ。草の香りをまとった乳の甘みがしっかりと感じられ、まさに“生きたチーズ”。そこに熟成の旨味を湛えた生ハムと、追熟した静岡メロンの瑞々しい甘さが重なる。塩味、甘味、コクがひとつにまとまり、土地と土地をつなぐような皿に仕上がっていた。

前菜は2皿をチョイス。
ひとつは「ギアラの煮込み ライム胡椒」。牛の第四胃を鶏の出汁でじっくりと煮込み、仕上げにライム胡椒を添えてある。濃厚な旨味の奥から爽やかな柑橘の香りが立ち上がり、こってりとした内臓料理に清涼感を与えていた。重さを感じさせないバランスが心地よい。

もうひとつは「太刀魚のフリット 実山椒タルタル」。ふっくらとした太刀魚に薄衣をまとわせ、香ばしく揚げたひと品。そこに合わせるのは、ぴりりと痺れる実山椒を効かせたタルタルソース。魚の甘さと山椒の刺激が互いを引き立てる。

パスタからも2種類。
「唐津産カラスミ スパゲッティ」と「ブラウンマッシュルーム マッケロニーニ」。カラスミのスパゲッティは、香り高い唐津産をふんだんに削りかけ、噛むほどに塩気と旨味がじんわり広がる王道の美味しさ。白ワインとの相性も抜群だ。

一方のマッケロニーニは、三種のきのこの旨味を凝縮したソースが絡み、低温発酵のニュアンスが奥行きを加える。仕上げに削られたフレッシュなきのこが香りを広げ、噛むごとに違う表情を見せてくれる。

メインは「氷室豚ロース 炭火焼き」をチョイス。しっとりと火が入り、肉の旨味と脂の甘みがじわりと溶け出す。付け合わせの根菜や葉野菜も香ばしく、炭火の香りとともにひと皿を完成させていた。

デザートは「エスプレッソのチーズケーキ」と「水牛ミルクジェラート」。濃厚ながら重さを感じさせないチーズケーキに、ミルキーで爽やかなジェラート。最後まで愛情を込めた手仕事で仕上げる。

職人が心を込めて作る。屋号の由来となる言葉の意味が、ひと皿ひと皿から静かに伝わってきた。ここは、イタリアの郷土、日本の風土、そして作り手の想いが重なり合う場所だ。ご馳走様でした。
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merachi
03-6762-8001
東京都港区西麻布1-4-23 アルゴ西麻布 1F
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