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2025.08.06 夜

師の味、その美学を守り抜く@貴山

日本料理

東京・日本橋

30000円〜49999円

★★★★☆

日本料理の世界で「京味」の名を知らぬ者はいないだろう。京都の雅と江戸の粋を融合させ、素材選びから仕立て、器遣いまで一貫した美学で、多くの料理人と食通を魅了し続けた伝説の名店。その最後の板場を任され、暖簾が下りる瞬間まで京味の火を守り抜いたのが、『貴山』の主人・金森氏である。器も椅子も、生産者も、そして味の組み立てまでを引き継ぎ、自らの色よりも“京味を守る”ことを選んだ。その信念は、目の前の一皿一皿から揺るぎなく伝わってくる。

口開けは「笹鰈」と「干しなまこ(ばちこ)」、そして「インゲンの黒胡麻和え」。香ばしさ、凝縮感、滋味の三拍子が揃い、静かに食欲の扉を開く。

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「芋茎の吉野煮」は京味の代名詞とも言える一品。とろみの中に優しい出汁を閉じ込め、舌と心を同時に温める。

続くのは、鱧の二段構え──皮目を香ばしく締めた「焼鱧」と、花のようにほどける「落とし鱧」。梅肉の紅と醤油の黒、それぞれが鱧の持つ二面性を端正に引き出す。

「雲丹のゼリー寄せ」は磯の香りを透明な膜に閉じ込めた夏の宝石、

「玉蜀黍の天麩羅」は衣の中から弾ける甘味が、夏の陽射しのように広がる。

造里は「鯛」と「アマテガレイ」。身の張りと旨味の密度が素材の力をそのまま伝える。

「牡丹鱧の椀」は、昆布のふくよかな甘味と鰹節の香りが渾然一体となり、京味のエッセンスを強く感じさせる迫力の一椀だ。

焼物は「鮎塩焼」。香ばしい皮の奥に潜むほろ苦さが、清流の夏そのもの。

「もずくと渡蟹の酢の物」は酸味と甘味の小粋な駆け引き、

「賀茂茄子田楽」は雲丹と味噌をまとい、野菜ながら堂々と主役を張る力強さを見せる。

食事は「鯛胡麻和え」の御飯に海苔と香の物、牛肉の時雨煮。ここで思う、かつての名物・鮭腹身の御飯は出ないのかと。聞けば、仕入れ先が廃業してしまったという。だからやらない。その潔さに誠実さが滲む。表層的な模倣ではないことが、ここでもはっきりとわかる。

甘味の「葛切」を黒蜜に浸せば、清らかな甘さが全てを包み込む。葛切を作る金森氏の手元が、ふと京味の西氏と重なる。

そして最後、金森氏から「かつての予約表はすべて残してある」と聞き、見せてもらった。その紙面には、最後に京味を訪れたあの日の“見冨右衛門”の名が確かに刻まれていた。胸の奥がざわめく。料理を味わうだけでは届かない、時間を越えた繋がり。味覚だけでなく、記憶も、感情も、この一席に流れ込んでいる。ここは、過去と現在が重なり合い、物語が続いていく唯一無二の舞台。ご馳走様でした。

貴山
03-3527-9120
東京都中央区日本橋室町1-11-8 神茂ビル 1F
https://tabelog.com/tokyo/A1302/A130202/13303152/

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