2025.07.28 昼 ふたつの蕎麦、ふたつの出汁。@手打蕎麦 まるやま そば 京王・小田急沿線 1000円〜2999円 ★★★☆☆ 代田橋の住宅街にそっと寄り添うように佇む『手打蕎麦 まるやま』。創業はなんと1953年。戦後の復興期、世の中がまだ混沌とする中で静かに暖簾を掲げたこの店は、以来70年以上にわたって、まっすぐな蕎麦打ちの道を歩み続けている。時代が変わろうとも、人の手で打つ蕎麦の尊さを守り抜く。その姿勢は、もはや「職人芸」ではなく「哲学」と言っていいだろう。 看板の一品は「二種せいろ」。白く繊細な「せいろ」と、黒く野趣あふれる「田舎」の二色盛り。まるで都会と山里、洗練と素朴が一皿で語り合うかのような構成で、そこにまるやまの信念が凝縮されている。 そして注目すべきは、蕎麦だけでなく“つゆ”までもが二種類。それぞれの蕎麦に、最もふさわしい味の輪郭を与えるべく、出汁も打ち分けているのだ。 「せいろ」は、外皮を除いた上品な粉から打たれた、淡い色味の蕎麦。むっちりとした歯ごたえに、舌の上でほろりとほどけるような食感。繊細ながらも芯のある味わいは、噛み締めるほどにじわりと甘みが広がっていく。これに合わせるつゆは、キリリと辛口の濃い出汁。鰹が立ち、潔さすら感じさせる一杯だ。 対する「田舎」は、玄蕎麦を皮ごと挽いた粗挽き粉から打たれた、まさに“土の香りを纏った蕎麦”。黒みがかった力強い見た目と、ざらりとした舌触り。そして、噛むほどにあふれ出す香ばしさと滋味。こちらには、やや甘みのあるまろやかなつゆが添えられ、蕎麦のワイルドな個性をやさしく包み込む。 二種の蕎麦に合わせて、つゆまできちんと打ち分けられている。その丁寧な設計に、料理人のまっすぐな仕事ぶりがにじむ。創業1953年、70年を超えてもなお、ただ目の前の蕎麦に向き合う姿勢。その積み重ねが、今日の一皿にも確かに宿っていた。ご馳走様でした。 — 手打蕎麦 まるやま03-3321-1478東京都杉並区和泉1-2-3https://tabelog.com/tokyo/A1318/A131808/13053742/