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2025.07.26 夜

土地と季節を束ねる、福島の物語。@丸新

日本料理

福島

10000円〜29999円

★★★★☆

福島・郡山『丸新』。まず驚くのは、大箱でありながら、客ごとに緻密に時間を刻むオペレーション力。広い空間を静かな緊張感で満たし、料理と客との距離感を美しくコントロールする。銀座で修業を積んだ主人ならではの段取り力が、懐石における「間」を完璧に演出している。テーマは明快、土地の旬を真っ直ぐに届けることだ。

幕開けは「潤菜とブルーベリー」。裏磐梯の清らかな水辺で育った潤菜が、透明な出汁にぷるりと沈む。まるで初夏の池をそのまま閉じ込めたような景色だ。そこに浮かぶのは、同じく福島で育ったブルーベリー。爽やかな酸味が、出汁の柔らかな旨味と響き合い、一椀の中に福島の夏が広がる。

続く「玉蜀黍の豆腐」は、まるで甘みの塊。そこに軽く炙った焦げ目を添え、香りで輪郭を引き締める。「鯵」は、東北の夏を象徴する皿。ずんだを思わせる枝豆ソースに、トマトのジュレで酸を忍ばせる。脂ののった鯵との相性は抜群で、野菜と魚の調和が見事。

続いて「紫雲丹とオクラの出汁ジュレ」。北海道・礼文島の雲丹は、舌にまとわりつくほど濃厚。その強烈な海の甘みに、地元産のオクラが真っ向から立ち向かう。青々しい香りとねっとりとした食感が、雲丹の旨味を引き締め、透明な出汁ジュレが二者をやさしくつなぐ。福島の畑の力強さが、遠い北の海と見事に拮抗する一皿だ。

「鮑と焼茄子のお椀」は、昆布を主体にした出汁。そのおかげで、出汁には昆布由来の甘味がしっかりと宿る。その柔らかな旨味に、香ばしく炙った茄子が強い存在感を放ち、鮑は潮の甘みで寄り添う。おかひじきは歯ざわりを添える役割。甘みと香ばしさ、そして食感のコントラストが、一椀の中で美しく響き合う。

さらに「鰹」。しっかりとした旨味を持つ鰹に、たっぷりの薬味と夏野菜を重ねる構成。魚を“野菜で食べる”という発想が、この一皿の面白さだ。出汁は澄み切り、口に含めば爽やかさが広がる。力強い鰹と、野菜の軽やかさ。その対比に、料理人のセンスが光る。

造りは「鯖、本鮪、カンパチ、墨烏賊」。魚は全国から選りすぐりだが、それを支えるのは福島の風土だ。地元・鈴木醤油店の醤油に、地元の日本酒の廣戸川、本味醂、昆布を合わせた特製醤油。そして、醤油を絞った搾りかすをパウダーにして振りかけるという工夫が、旨味の奥に深い余韻を残す。魚と調味がぶつかるのではなく、響き合い、一切れごとに福島で食べる意味を語りかけてくる。

「甘鯛の鱗焼き」。皮目を香ばしく焼き、鱗はパリパリの食感に仕上げた逸品。そこに添えられるのは、あらで取った濃厚な出汁の小椀。香ばしさと滋味を対比させ、一匹の魚を余すところなく堪能させる構成だ。

「鱧と玉葱の椀物」。愛媛の名漁師・藤本さんが手がける鱧を使用。地産にこだわる一方で、最良の素材のためなら全国からも仕入れる——その柔軟な姿勢が、この一椀に表れている。鱧の繊細な旨味を、玉葱のやさしい甘みが支え、澄んだ吸い地が全体をやさしくまとめる。

そして肉料理、「うねめ牛シャトーブリアン」。福島が誇る黒毛和牛ブランドで、きめ細やかな肉質と脂の甘さが魅力だ。その芯を担う部位・シャトーブリアンを、絶妙な火入れでしっとりと仕上げている。焦がし葱のソースが香ばしい苦味を添え、旨味を一段と深くする。

食事の最初は「手打ち蕎麦」。素朴な香りと心地よい喉越しで、コースの余韻を静かに締めくくる一品。余計な装飾をせず、素材と技の確かさが際立つ。

続いて「玉蜀黍の土鍋御飯」。炙ったゴールドラッシュの粒をぎっしりと詰め、土鍋でふっくらと炊き上げる。蓋を開けた瞬間、立ち上る香ばしい香りに食欲が掻き立てられる。香り、音、そして視覚。五感をくすぐる演出とともに、夏の甘みを米粒にまで染み込ませた贅沢な一品だ。

そして甘味、「焙じ茶のアイスと小豆」。ほろ苦い焙じ茶の香りと、小豆のやさしい甘さが織りなす、穏やかな終章。食後の余韻をやさしく包み込み、長い物語を心地よく締めてくれる。

福島の豊かな山海の恵みを軸にしながら、必要とあれば全国から最良の素材を迎え入れる柔軟な発想。そして、そのすべてを懐石という舞台で調和させる構成力が『丸新』の真骨頂だ。一皿ごとに土地の香りが漂い、時に福島の畑の力強さを、時に遠方の海の深みを感じさせる。そのすべてが、この郡山という地で一本の物語に束ねられていく。ここで過ごす時間は、ただの食事ではなく、福島の今を映す「食の風景」だ。

ご馳走様でした。

丸新
024-922-1851
福島県郡山市神明町15-4
https://tabelog.com/fukushima/A0702/A070201/7001521/

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