新宿・思い出横丁。赤提灯が揺れる細い路地に、煙とざわめきが絡み合う光景は、日本の昔ながらの居酒屋文化をそのまま切り取ったものだ。肩を寄せ合うカウンター、飛び交う注文、立ち上る湯気。その熱気を求め、今や世界中の旅行者が集まってくる。観光地ではなく、日常の中で体験する“非日常”。これこそが、彼らを惹きつける理由だろう。その横丁で、常に行列を生む人気店が『ささもと』 。目の前で繰り広げられるのは、湯気と炭火のステージだ。

幕開けは「串煮込み」。カウンター中央でぐつぐつと煮える大鍋、その味噌の香りが席まで押し寄せる。鍋から引き上げられたもつは、とろけるように柔らかく、しっかりと染み込んだコクと強めの塩気がビールを一気に呼び込む。これがこの夜のスイッチだ。

続いて、串の出番。ここで面白いのが、『ささもと』ならではの仕込み方だ。どの串も、まず味噌仕立ての大鍋で煮込まれ、下味をしっかりまとってから炭火へ。味噌の旨味をまとった肉やホルモンが、炎にさらされて香ばしさを纏う。柔らかさと香り、そして濃さを両立させる、この二段構えのスタイルが、この店の大きな武器だ。
まず「レバー」。とろりと濃厚な旨味に、ネギの香りが寄り添う王道の組み合わせ。

次に現れた「ねぎま」は、鶏ではなく豚ハラミ。弾力のある肉と焦げたネギの甘み、そのコントラストがたまらない。

「テッポー(直腸)」は噛みしめるたびに脂の旨味が滲み出し、

「すじ」は噛みごたえの中に潜むワイルドな旨味が魅力。

そして「シロ(大腸)」。ぷるりとした食感と脂の甘さが、口いっぱいに広がる。

最も印象に残った一本、「かしらの味噌やき」。炭火でしっかり焼き上げた肉に、仕上げとして赤味噌を刷毛でたっぷり塗る。塗られた味噌は熱を受けて柔らかく溶け、肉の表面に艶やかな層を作る。この最後の一手が、旨さを決定づける。ひと口かじれば、外は香ばしく、中はジューシー。その上に濃厚な味噌の旨味が舌を覆うのだ。

変化球も忘れない。「えのき巻き」。豚肉に包まれたえのきの中から、ジュワッと熱々の旨味汁が弾ける。やけど覚悟、それでも止まらない美味しさ。

そして「スナップエンドウ巻き」は、濃厚な味の流れに清涼感を差し込むリフレッシュな一串だ。

クライマックスは「キャベツ煮込み」。シンプルに見えて、大鍋の出汁をたっぷり吸ったその甘みと滋味深さは、肉の余韻を優しくまとめる。

そして最後は「スープ」。これは、もはや鍋の旨味がすべて凝縮された味噌汁というわけだ。締めにピッタリ。

『ささもと』は、ただの食事ではなく、五感で浴びる体験だ。煙、湯気、刷毛で塗られる味噌、炭火の音、そして肩を寄せ合うカウンター。この光景こそ、日本の居酒屋文化の真骨頂。外国人旅行者がスマホを構えるのも当然だ。ここでしか味わえない“東京の夜”が、この湯気の中にある。
ご馳走様でした。
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ささもと 新宿店
03-3344-3153
東京都新宿区西新宿1-2-7 思い出横丁
https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13000779/