2025.07.15 夜 地鶏と炭火の物語。挑戦から生まれた10年の矜持@備長炭焼鳥 鳥しげ 焼鳥・焼きとん 焼津・藤枝・御前崎 10000円〜29999円 ★★★★☆ 魚文化が根づく町で、10年前に現れた焼鳥屋『備長炭焼鳥 鳥しげ』。修行歴なし、型を知らずに始めた挑戦が、この地に新しい食の風景を描いた。炭火と素材に真摯に向き合い、じっくりと積み重ねてきた味が、今の存在感を支えている。 串に使う鶏は2種類。ささみと内臓系には京赤地鶏、その他は天城軍鶏を用いる。軍鶏は力強く噛むほど旨味を増す赤身、京赤地鶏はしなやかで上品な甘み。その個性を備長炭の火で引き出す。ここでの焼鳥は、ガツンと来る旨さではなく、じんわりと沁みる旨さ。だから食べ疲れしない。最後まで軽やかに楽しめる。 始まりは「枝豆のすり流し」。グラスに注がれた緑の液体は、枝豆の濃厚な旨味と胡椒のアクセントが心地よい。ここから串の物語が始まる。 まずは「ささみ」。京赤地鶏のしっとりとした肉質に、わさび漬けのタプナードを添えるという大胆な一手。オリーブの風味が、意外なほどしっくり寄り添う。 続く「砂肝」も京赤地鶏。カリッと弾む歯応えと、噛みしめるたびに滲む旨味。塩のキレと炭の香ばしさが調和する。 「もも」からは天城軍鶏の世界。タレの焦げた香りと肉汁の甘みが広がり、噛むたびに肉の力強さが伝わる。 「レバー」は再び京赤地鶏。外は香ばしく、中はとろりとレア。タレの艶やかな甘みと仄かな苦味が、記憶に残る余韻を生む。 ここで野菜の出番。「アスパラ」は藤枝産。瑞々しさを炭火が閉じ込め、香ばしさと甘みが際立つ。 「オクラ」はねっとり感で、串のリズムを整える。 軍鶏の希少部位も続く。「ふりそで」は天城軍鶏の雌。脂と赤身のバランスが絶妙で、噛むほどに旨味がほどける。 「はつ」は京赤地鶏。小ぶりながら力強い味わい。 「メークイン」はホクホクと甘みを広げ、舌を癒やす。 「つくね」はオス軍鶏で仕立てる。弾力がありながらジューシー、噛むごとに旨味が押し寄せ、炭火の香りが抜けていく。 「ねぎま」はネギではなく、玉ねぎのシャキシャキ感がアクセントになり、肉のコクを引き立てる。 「手羽」は骨を抜き、ニンニクの芽を仕込む粋な技。タレとの一体感で最後まで飽きさせない。じんわりとした旨さ中心の設計の中に強弱を作る。 クライマックスは「ちょうちん」。150日育てた軍鶏の卵黄と白身のコントラストが、濃厚な一口を生む。 締めは「軍鶏ガラスープの中華そば」。軍鶏の骨からとった出汁は野生味がある。 さらに「焼きおにぎり」で炭火の余韻をもう一度楽しみ、 「ラムレーズンのアイスクリーム」でほろ苦い甘美なラストを迎える。 修行歴なし、文化ゼロの町に立ち上がった焼鳥店。10年を支えたのは、疲れない旨さと誠実な仕事。魚を愛する町に、鶏の香りを広げた『鳥しげ』。静かな感動を求めるなら、この場所を訪れる価値がある。ご馳走様でした。 — 備長炭焼鳥 鳥しげ054-641-6561静岡県藤枝市小石川町1-3-7https://tabelog.com/shizuoka/A2203/A220301/22039162/