2025.06.14 夜 揚げるたび、素材が目を覚ます。@天ぷら たけうち 天ぷら 福岡市 10000円〜29999円 ★★★★☆ 福岡・那珂川の住宅街にひっそり佇む『天ぷら たけうち』。屋号に“天ぷら”を掲げながらも、コースは揚げ物一辺倒ではない。刺身、茶碗蒸し、握りまで、多彩な皿が序盤から展開される。これは、ただの寄り道ではない。素材の魅力を一番伝えられる形を選びながら、その力を丁寧に提示していく構成。天ぷらはその流れの先にある、ひとつの表現方法にすぎない。 たとえば、「浅蜊と海藻の冷製小鉢」。芽かぶのぬめりと浅蜊の旨味、冒頭にふさわしい清涼感を添える。 朝締め「鯛」のお造りは身質の澄んだ静けさが印象的で、 銚子産の「金目鯛」の握りは、叩いた「水烏賊」を台に使うという一捻りの妙。柔らかく甘い口どけが、従来の握りに新しい感覚を与える。 「酒肴五種盛」では、それぞれの素材が異なる技法で仕立てられ、五通りの旨味と余韻を用意する丁寧な仕事。 「鯵」の握りでは脂の甘味を引き立てる香味野菜の存在が絶妙で、握りそのものの温度や力加減にも揺るぎない信頼を寄せられる。 「天然鮪」の巻き物は、刻み葱とともに軍艦状に包まれ、赤身のキレと海苔の香りが渾然一体に。 そして、ここからが天ぷらの本領。 「車海老の頭」は香ばしく、脚までサクサク。 続く「車海老の本体」は軽やかさがありつつ、しっかりと衣を纏い、ふっくらとした身に甘味がにじむ。 「鱚」はそのサイズからして規格外。ふっくらと肉厚な身は天ぷらであることを忘れそうになるほど柔らかく、揚げの枠を軽々と飛び越える旨さに驚く。 「牡蠣」は大船渡産の特大サイズ。外周のひもは旨味が凝縮し、中心部はまるでミルクのような濃厚さ。旨味とコクの二層構造が、一口ごとに押し寄せる。 「茄子」、 「甘鯛」、 「穴子」、 「ピーナッツもやし」、 そして朝採れの「アスパラ」や 「ホワイトコーン」など、揚げの技が光る素材たちが軽やかに登場。素材を引き立てる寄り添い方が非常に上手く、どれもその特性を最大限に活かす火入れと衣使いが施されている。 締めには、「桜海老と金目鯛の天丼」、 そしてそれを「天ぷら茶漬け」に転じた終盤の構成。香ばしさと滋味、そしてほっとする温度感が、食事のフィナーレを静かに整える。 『天ぷら たけうち』は、素材の力と向き合い、それにふさわしい表現を探し続ける料理人の姿勢が表れた店。和食の技法を多層的に使いながらも、全体の流れには一本筋が通っている。天ぷらという冠に収まりきらない、誠実で柔軟な料理観。その一膳一膳が、まっすぐ伝えてくれる。ご馳走様でした。 — 天ぷら たけうち092-953-1699福岡県那珂川市今光6-64-1https://tabelog.com/fukuoka/A4003/A400301/40013636/