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2025.04.10 夜

“味”の継承、“ひろ”がる春。@味ひろ

日本料理

築地・湾岸・お台場

30000円〜49999円

★★★★☆

東京・新富町の路地裏に、そっと佇む一軒『味ひろ』へ。

日本料理の名門「京味」で16年の修行を積んだ店主が独立し、暖簾に師から受け継いだ「味」の一文字を掲げる。2023年には現在の地に移転。全体的な印象に大きな変化はないが、レイアウトはよりゆとりある設計となり、空間全体にアップデートが施された印象だ。その静けさと清潔感が、料理の余白と向き合う時間をより豊かなものにしてくれる。

出汁と向き合い、素材と語らい、手仕事の一つ一つに心を込める──まさに“正統派日本料理”の継承者である。

料理は、素材への敬意がすべての出発点。奇抜さはない。だが、穏やかに、誠実に、旬を一番美味しいかたちで届けてくれる。今回は春の訪れを祝うようなコース構成。生命の芽吹きと食材の伸びやかさが器に表現されていた。

この日の主役は「筍」。京都・塚原の筍を用い、えぐみの影は一切なし。その若さと柔らかさを湛えた味わいは、春そのもの。前菜では木の芽の香りをまとい、

炊き合わせでは蕗の薹や鯛の子と共演。春のほろ苦さと穏やかな甘味を対比的に描きながら、季節の輪郭を鮮やかに立ち上げる。

そして、締めに登場する「筍とうすい豆のご飯」。ここで主従が逆転する。優しい出汁と共に炊かれた筍に寄り添うのは、うすい豆のふくよかな甘味。食感、香り、味わい、そのすべてが筍をそっと包み込み、最後の一膳に彩りと余韻を添える。うすい豆はこのほかの料理でも姿を見せるが、やはりこの一品でその存在が輝いていた。

そのほかの料理も、春の声を器に託していた。

「空豆と独活、海鼠腸、カラスミ」酒肴としての完成度と季節感が見事な八寸。

「氷魚」ほんのりとした苦味を大根おろしが優しく包む。

「小柱とこしあぶらの天ぷら」春の香りをまとった軽やかな揚げもの。塩加減が絶妙。

「鯛と赤貝の刺身」それぞれの食感の違いが明確で、構成の妙を感じる。

「お椀」アイナメの葛叩き。梅の酸味と鰹出汁がふわりと調和し、静かな輪郭を描く。

「焼き物」皮目はパリパリと香ばしく、身の旨味とのコントラストが印象的。

「わらび餅」とろける舌触りと、香ばしいきな粉の香りでしっとりと着地。

素材を見つめ、季節に寄り添い、味を重ねすぎず、その一番美味しい一点を見極める。その誠実さが、『味ひろ』の料理には染みついている。場所を変え、少し整えられた空間で、変わらぬ技と心がある。控えめな店構えの奥に、春の景色がそっと広がっていました。

ご馳走様でした。

味ひろ
03-6280-5503
東京都中央区入船3-8-9 ドミシールカワイ 1F
https://tabelog.com/tokyo/A1313/A131301/13293039/

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