2025.03.27 夜 一日一組、火と素材のプライベートセッション@HIBACHI お好み焼き・もんじゃ焼き・鉄板焼き 六本木・麻布・広尾 麻布十番の奥にひっそりと構える『HIBACHI(ヒバチ)』。 表向きの予約は受けつけず、わずか数十名の会員のみがその扉を開けることができる完全プライベートなレストランだ。しかも、1日1組限定。もはやレストランというより、料理人と食材を独り占めする贅沢な舞台と言っていい。運営は鮪の目利きで知られる「やま幸」。マグロにとどまらず、あらゆる素材へのリスペクトに満ちた一軒だ。食材は毎回異なり、メニューは客ごとにアレンジされるフルオーダーメイドスタイル。その日、その人、その時間のためだけに火が入れられる。 この日いただいたのは、まず「鰹」。藁の香りをしっかりとまとわせながらも、中はふっくらとレアに仕上げ、余韻にはねっとりとした旨味が残る。 「蛍烏賊」はシンプルに火入れことで、春の香りとほのかな苦味を引き出すアプローチ。 「蛤」は貝のエキスを逃すことなく炭でふっくらと火入れされ、磯の風味と甘みが口いっぱいに広がる。 「牡丹海老と雲丹」はまさに贅の重ね技。濃厚な甘みとクリーミーさが口内で渾然一体となり、官能的な味わいに昇華される。 「稚鮎のフリット」は、ほろ苦さと春の香りを衣の香ばしさが包み込むような設計。 「穴子と花山椒」は、山椒の痺れと香りが脂の乗った穴子に立体感を与え、記憶に残る一皿に仕上がっていた。 そして、今回あえてお願いしたのが2つの“実験”。 ひとつは「ツナサラダ」。現在、自家製ツナの研究をしていることもあり、マグロのプロがつくる“ツナ”がどう仕上がるのかを知りたくてお願いした一皿。サラダ仕立てで提供されたそれは、こちらが抱きがちな魚臭さの印象を見事に払拭しており、上品かつクリアな味わいに驚かされる。なるほど、使用されているのは頭肉とのこと。我々のようなレストラン経営者にとっても、素材選びと処理の妙を体感させてくれる、非常に学びの多い一品だった。 もうひとつは「タン」の食べ比べ。炭火と鉄板、それぞれで焼き分けた二種を並べて提供していただいた。手法による火の入り方、香りの乗り方、脂の引き加減──同じ素材が、異なる技術によってまったく違う表情を見せる。その差を五感で比較できること自体が貴重な経験であり、ヒバチが提供する自由度の高さという魅力を堪能できた。 いずれも技術と素材が高い次元で交差するが、決して派手な演出に頼らない。むしろ、素材と火の対話に耳を澄ませるような静かな時間が流れる。鉄板焼き=肉、という固定観念にとらわれず、海と山の恵みを自在に操るこの店のスタイルは、伝統にとらわれない発想の賜物だろう。特別な空間で、特別な素材と対峙するひととき。誰かにとっての特別な一皿は、ここでは確かに、唯一無二のものになる。ご馳走様でした。 — HIBACHI03-3451-2986東京都港区麻布十番2-8-12 リレント麻布十番 1Fhttps://tabelog.com/tokyo/A1307/A130702/13228534/