2025.03.23 昼 佐野には、もうひとつの名物がある@野村屋本店 うどん 小山・佐野・栃木 1000円〜2999円 ★★★☆☆ ラーメンの街として知られる栃木・佐野。だがこの地には、他にも地元の人々に大切にされてきた食文化がある。今回は佐野の郷土料理を2つ紹介しよう。そのどちらも、佐野市役所のすぐ近くにある老舗『野村屋本店』で味わうことができる。 まずは「耳うどん」。名前からしてインパクト抜群だが、姿形もまた然り。うどん生地を“耳”のように畳んで成形したものが、澄んだ醤油スープの中に沈む。いや、スープというより、これはもはや雑煮。 具材には椎茸、鶏肉、カニかま、わかめ、かまぼこ、なると、伊達巻などがぎっしりと入り、どれも縁起を感じさせるものばかり。年越しや新年の節目に供される料理として親しまれてきた背景が、この一椀に凝縮されている。 主役の耳うどんは、もはや“うどん”というより“餅”。むちっと厚く、口にすれば小麦の甘さを感じる。形だけでなく、味や食感までどこか愛らしい。地元では「災いを耳に入れない」縁起物として語られるこの料理。風習も、味も、記憶に残る一杯だ。 もうひとつの郷土料理は「大根そば」。おろしそばでも、つけ大根でもない。細切りの大根を、まるでネギのようにそばの上にたっぷりと盛り付けた一皿だ。 箸で持ち上げれば、そばと大根が同じリズムで絡まり、シャキシャキの歯触りが蕎麦のしなやかさと交錯する。そば自体はスタンダードなものだが、このトッピングによって食感の層が一気に増す。薬味というにはあまりに存在感があり、具材というにはあまりに爽やか。地元では「細く長く、白髪になるまで元気に」と願いを込めて食べるともいう。なんともうれしい話ではないか。 佐野のラーメンは、もちろん素晴らしい。だが、その土地の食文化は一つの料理だけでは語れない。『野村屋本店』の器には、食の風土と人の想いがたしかに息づいていた。ご馳走様です。 — 野村屋本店0283-22-0396栃木県佐野市相生町2819https://tabelog.com/tochigi/A0902/A090202/9001007/