東京・麻布十番に楽しみな店がまたひとつ加わった。
博多で人気を博した串揚げ専門店「串揚げ たつかわ」が、『串揚げ料理 かわた』として東京に進出。店を率いるのは、店主・川田悠貴氏。その名前を冠した店名は、料理人としての挑戦を示しているのだろう。特徴は、単なる串揚げではなく、揚げの技術に料理としてのアプローチを掛け合わせた“串揚げ料理”。その名が示す通り、ここではただの揚げ物ではなく、一串ごとに計算されたストーリーが展開される。
その技術とセンスが伝える、注目の串をいくつかご紹介してまいりましょう。
「天草産 活け車海老(塩)」
まずは王道から。高温でさっと揚げられた海老は、噛めばプリッと弾ける食感と甘み。芯にはごくわずかにレアを残した絶妙な火入れが、その鮮度と技術の高さを証明する。薄衣だからこそ際立つ素材のポテンシャルを、シンプルな塩がダイレクトに引き出してくれる。

「銚子産 本鮪カダイフ串 山の芋とろろ 海苔 本山葵」
ここで登場するのは、ユニークなアプローチの一本。衣に使われるのはパン粉ではなく、極細の生地“カダイフ”。繊細なサクサク感が鮪の滑らかな舌触りを引き立て、ねっとりとした山芋をたっぷりと絡めとる。その構造だからこそ成立する一体感で、本山葵の清涼な香りが全体を引き締める。まさに理にかなった創作串揚げだ。

「黒トリュフじゃがバター」
そして、店のアイコンとも言える一串が登場。一番人気を誇るのがこの「黒トリュフじゃがバター」だ。トリュフと白トリュフ塩を練り込んだバターを、じゃがいもで包んで揚げる。外はサクサク、中から溢れ出すバターのコクと、立ち上がるトリュフの芳醇な香り。この誘惑に抗える者はいない。

「卵黄和牛巻き 甘辛くした新玉葱ソース」
締めくくりにふさわしい、禁断の一串。半熟の卵黄がとろけ、和牛の脂と絡み合う。甘辛く仕上げた新玉葱のソースが全体を包み込み、旨みをさらに加速させる。串揚げの中に、まるで“すき焼き”のような世界を完成させた一品。これはもう、ただの串揚げではない。“串揚げ料理”という言葉の意味を、まさに体現している。

その他のラインナップも簡単にご紹介しておきましょう。
「沖縄産 絹もずく」
もずくの酸味、文旦のほのかな甘み、紫蘇の香り。シンプルながらバランスの取れたスターター。清涼感のある一口が、次の展開への期待を高める。

「静岡産 無投薬飼育うずら玉子(出汁醤油)」
外はカリッと香ばしく、中はとろりと半熟。うずらならではの濃厚な黄身が、出汁醤油の旨みをまといながら口の中に広がる。

「熊本産 黒毛和牛イチボ(ソース)」
きめ細かな肉質、程よいサシ。噛むほどに肉の甘みが広がるイチボを、濃厚なソースがガツンと支える。シンプルながら満足感の高い一串。

「椀」
サクサクの筍のパン粉かき揚げを、吸い地に浸して食べる。外はカリッと香ばしく、中は出汁を含んでジュワッと広がる旨み。串揚げの一形態として“椀”で出すアイデアはユニークで、揚げ物の流れにひと工夫加える演出としても面白い。

「口直し」
フルーツトマト、ほうれん草のお浸し、ホタルイカの組み合わせ。爽やかな酸味、ほのかな渋み、海の旨みが一体となり、口の中をリセットしてくれる。

「石川産 加賀蓮根(出汁醤油 or 塩)」
加賀蓮根のシャキシャキ感に、衣のサクサク感。シンプルな揚げが素材の甘みを際立たせる。出汁醤油の旨みもいいが、塩で食べるとより輪郭がくっきりする。

「栃木産 アスパラガス(クリームチーズソース)」
揚げることで甘みが引き立つアスパラに、コク深いクリームチーズのソース。シンプルながら味の厚みを感じさせる一串。

「対馬産 穴子(出汁醤油)」
サクッ、ふわっ、とろっ。食感の変化がたまらない。穴子の淡白な旨みを支えるのは、優しく香る出汁醤油。揚げ物でありながら、軽やかに仕上がる一串だ。

「大分産 虎河豚(おろしポン酢 青葱)」
虎河豚の旨みを、衣が閉じ込める。噛めばじゅわっと広がる味わいに、おろしポン酢の酸味がキレを与える。爽やかでありながら、しっかりとした満足感。

「北海道産 神威豚肩ロース(ソース)」
力強い旨みと、じんわり広がる脂の甘み。肩ロースの肉々しさをダイレクトに楽しめる一本。濃厚なソースが、さらにその存在感を引き立てる。

「揚げ茶漬け」
そして、最後に待つのは新たなサプライズ。香ばしく揚げたご飯が、出汁を吸い込みながら崩れていく。サクサク、トロリ、ジュワッ。海苔の風味、山葵の爽やかさ、野沢菜の塩気……。全てが一つになり、口の中で心地よいフィナーレを迎える。

「愛媛産 キウイフルーツとゴールデンキウイのシャーベット」
揚げ物の余韻を引き締める、爽快な締めくくり。キウイの甘酸っぱさが、最後の一口まで計算されたコースを彩る。

最後にひとつ、惹かれた粋なルールを紹介。串の向きで、出汁醤油・ソース・塩のどれで食べるかが決まる。迷うことなく、職人の意図のままに味わうことができるのが心地よい。そして、その一本一本が驚きの連続だ。串揚げという枠を超え、“串揚げ料理”へと昇華させた川田氏の技術と発想。それは、シンプルながらも計算し尽くされた構成の妙に表れている。素材の持ち味を活かす繊細な衣、飽きさせない味の変化、そして最後まで意表を突く展開。博多の人気店が東京でどんな軌跡を描くのか、今後も注目したい。
ご馳走様でした。
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串揚げ料理 かわた
050-5596-2799
東京都港区麻布十番1-6-9 ARUGA22 7F
https://tabelog.com/tokyo/A1307/A130702/13307546/