大阪には“ちゃん”付けの焼肉の名店が多い。飴にまでちゃん付する文化ですからね。大阪の親しみやすい気質と、焼肉の大衆性がうまく合致しているのだろう。そのちゃん付にふさわしい温かい接客と、ちゃん付では収まらない名店クラスのクオリティ。その両方を兼ね備えた焼肉店がいくつか存在する。その1つが、堺にある2014年創業の『つねちゃん』だ。

店内はカウンター中心のこぢんまりとした空間。だが、扱う肉のクオリティは折り紙付き。米沢牛や熊本牛など、厳選された牛肉を部位ごとに最適なカットと火入れで提供する。その素材の力に自信があるからか、たとえば「米沢牛のセンマイ刺し」のような一品が象徴的。噛むほどに旨みが溢れ、酢味噌がさっぱりと味を引き締める。序盤のつかみとしては申し分ない。続く、目の前で繰り広げられる焼肉劇場にも期待が高まるばかりだ。

まずは「タン元」から。一本の牛からわずかしか取れない希少部位を、厚切りで味わう贅沢。焼き上げると、表面はカリッと香ばしく、中は驚くほどジューシー。噛み締めるほどに肉の旨みがじわりと広がる。

さらに、「タンツラ」も見逃せない。タンの中でも動きの多い部分で、程よい歯応えがありながら、噛むごとに溢れる肉汁がクセになる。タン好きならぜひ食べ比べをしたいところ。

続いては、「ハネシタの焼きしゃぶ」と「ハネシタの焼きすき」。肩ロースの中でも特にサシが細かく、きめの細かい肉質が特徴だ。「焼きしゃぶ」は、片面だけを軽く炙ることで、肉の柔らかさを最大限に生かす仕上げ。噛めばとろけるような口溶けと、じんわりと広がる脂の甘みがたまらない。

一方で「焼きすき」は、薄切りのハネシタをさっと炙り、卵とニンニクチップでいただく。

すき焼きのような濃厚な味わいでありながら、重さを感じさせない絶妙なバランス。これはもう、焼肉というより一品料理の領域に達している。

「ハラミ」は、しっかりともみダレをまとわせ、焼くことで香ばしさが増す。肉厚でジューシー、適度な歯ごたえがあり、噛むほどに味わいが深まる。焼肉の定番部位ではあるが、質の良いハラミはそれだけで十分に主役を張れる。

そして「つらみ」。赤身の濃厚な旨みを持ちながら、脂の軽さが心地よい。熊本牛ならではの赤身の強さが際立ち、肉の旨みをダイレクトに味わうことができる。

そして、極めつけは「スーパーシャトーブリアン」。ヒレの中心部分、シャトーブリアンの中でも特に選び抜かれた部位を使用し、その肉質のきめ細かさと繊細な脂の甘みは圧巻の一言。

火入れの加減が絶妙で、歯を入れた瞬間にその滑らかさが伝わる。口に含めば、舌の上で溶けるような柔らかさに驚く。

ここまで我慢していた白米を、ついに投入。肉の旨み、脂の甘み、タレの香ばしさ、それらを受け止めるご飯の包容力。最後にご飯を合わせることで、焼肉の満足度が一段と高まる。

店主は、長年の経験を積み、自らの理想の焼肉を追求するために独立。肉の品質、カットの仕方、火入れの加減、そのすべてにこだわりが詰まっている。高級焼肉店のような格式ばった空気はないが、焼肉への真剣な姿勢が感じられる。
カウンター越しに繰り広げられる、職人と肉との対話。その一枚一枚に、焼肉の奥深さを改めて思い知らされる。親しみやすい“ちゃん”付けの店名に隠された、本物の実力。焼肉好きならば、一度は訪れるべき一軒だ。ご馳走様でした。
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つねちゃん
072-232-8611
大阪府堺市堺区御陵通4-7 和伸ビル 1F
https://tabelog.com/osaka/A2705/A270501/27079111/