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2025.03.08 夜

蜃気楼のように儚く、確実に存在する四川の楽園@蜃気楼

中華料理

板橋・東武沿線

10000円〜29999円

★★★★☆

予約困難の極み——『蜃気楼』。

1日1組4名限定、しかも新規予約は受け付けない。名前の通り、まさに幻の店。だが、その幻に足を踏み入れた者だけが体験できる、刺激と中毒性に満ちた四川の深淵がここにはある。ディープな佇まいの店内、小上がりにちゃぶ台という家庭的な空間。しかし、ここはただの中華料理店ではない。持ち込んだワインを見て、その日の料理を決めるというアドリブ力。メニューがあるようでない、即興の四川劇場が繰り広げられるのだ。

その舞台を仕切るのが“隊長”と呼ばれる店主。本場四川に14年も通い、現地の味を徹底的に吸収したその腕は、単なる麻辣の刺激ではなく、香り、コク、余韻まで計算し尽くしている。彼の作る辣油を含めたオイルの存在が大きい。それは単なる“辛さ”ではなく、香り、痺れ、旨味が幾層にも重なる深淵。これを形容するなら、もはや“ドラッグ”という言葉がしっくりくる。

料理の幕開けを飾るのは、「山椒たっぷりの筍」。シンプルながら、山椒の痺れがじんわりと効き、これだけでワインが止まらなくなる。

「四川式ナス炒め」は、大ぶりにカットされたナスが油をたっぷり吸い込み、粗挽きの挽肉と山椒の香りが織りなす濃厚な味わい。

そして、「水餃子」。そのままでも十分に旨みがあるが、青山椒と青唐辛子のつけだれがあると痺れと辛さが一気に押し寄せる。まるで味覚を揺さぶる実験のよう。まさにこれはドラッグだ。

「焼肉餅」は、もっちりとした生地に濃厚な肉の旨味、スパイスの香りが絡む一品。シンプルながら、噛むほどに広がる旨味とスパイスの余韻にやられる。カレー風味も相まって、異国の香りがさらに食欲を加速させる。

「スパイス鶏軟骨炒め」は、身がしっかりとついた鶏軟骨を、スパイスと複数のオイルで炒め上げることで、香りの立体感と奥行きを生み出している。そこにトッポギのようなモチモチとした食感が加わる。仕上げには、店主が操るマスタードオイルも投入され、さらなる旨味の爆発を演出。まさにここでしか味わえない、刺激的な一皿だ。

「青椒麺」は、青唐辛子の突き抜ける辛さ、花椒の痺れ、辣油のコクが三位一体となった麻辣の極地。太めの麺にタレが絡みつき、食べるたびに旨味のグラデーションが広がる。

締めは「スパイス炒飯」。見た目はシンプルながら、深く練り込まれた旨味が口の中で爆発する。海老の香ばしさ、辣油のコク、花椒の痺れが混ざり合い、最後までテンションの落ちない一皿。

ここでの食事は、決してレシピ通りにはいかない。その場にいる客の持ち込んだワイン、料理へのリアクション、隊長のインスピレーション。それらすべてが重なり合い、唯一無二の体験が生まれる。まるでジャズの即興演奏のように、その日、その場でしか生まれない料理。予約ができないという壁すら、この店の魅力の一部に思えてくる。

蜃気楼のように儚く、だが確実に存在する四川の楽園。食べた者は皆、その中毒性の虜になることでしょう。ご馳走様でした。

蜃気楼
03-3964-6657
東京都板橋区板橋1-33-1
https://tabelog.com/tokyo/A1322/A132201/13008896/

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