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2025.03.04 夜

一皿ごとに語られる、研ぎ澄まされた技と味@上深川

中華料理

大阪市

10000円〜29999円

★★★★☆

大阪・西天満の地で予約困難店となっている『上深川』。店名は、シェフの出身地である広島・上深川に由来する。大阪における中華の名店「中国菜 火ノ鳥」の出身でありながら、その経歴は一筋縄ではいかない。ラーメン店やイタリアンなど、ジャンルを横断する経験を積んできたシェフが繰り出す料理は、正統派の中国料理にとどまらず、多彩なバックボーンがにじむ。そして何より、中国の食文化への深い造詣が伝わる皿の数々からも、師匠である火ノ鳥の井上シェフへのリスペクトを随所に感じさせる、芯の通った一軒だ。

コースはおまかせ一本。最初に供されるのは「10種の前菜」。

例えば、「上海蟹」は、蟹味噌の濃厚な旨味が舌の上で広がり、余韻を長く引く。「天草大王の手羽先」は、じっくりと薫香をまとわせ、骨周りの肉を噛み締めるたびに旨味が滲み出る。「風干しの猪」は、野趣あふれる猪肉の味わいが素晴らしい。「四川風おでん」は、大根や腸詰をピンチョスのように仕立て、見た目にも楽しい。さらに、手前に並ぶ球体の三品、「鯛の昆布〆」「芽キャベツ」「海苔」が、それぞれの食材を包み込む形で仕上げられ、繊細な仕事が光る。

いくつものスープを駆使するのも、この店の特徴のひとつ。

そのひとつが「上湯スープ」。中華における最高峰の出汁をベースに、細切りの海鼠や錦糸卵が浮かび、そこに酢胡椒がアクセントを加える。じんわりと体を温めながら、次の一皿だけでなく、コース全体への期待を高める一杯だ。締めの「つゆそば」にも、このスープが使われる。ホタルイカの濃厚な旨味を、アシタバや菜の花といった春の野菜が軽やかに受け止めた一杯。コースの終盤を爽やかに締めくくる。

もうひとつのスープの見せ場は、「河豚の白子とロブスターの三套湯スープの餡掛け」。その名の通り三段階の旨味を重ねた三套湯に、白子のクリーミーさが加わり、ロブスターの甘さが引き立つ。手間のかかる料理ではあるが、その価値を十分に感じさせる一品。

スープが料理を支えるのは「揚げ餅」も同様。酸味と辛味のバランスが絶妙な酸辣湯が、カリッと揚げた餅に染み込み、中に詰めた牛肉と一体化する。ここまでスープの役割を意識させるのも、その技術の高さがゆえでしょう

コースの設計もお見事。

例えば、自家製金華ハムで炊いた「鮑」。凝縮された金華ハムの旨味が、鮑の繊維と米のひと粒ひと粒に行き渡り、噛むほどに旨味が滲み出る。もっと食べたくなるが、このサイズ感だからこそ、その欲望が膨らむ。

さらに、小さな点心が二品。「焼きまんじゅう」は、海老と海老芋を合わせ、噛んだ瞬間に海老の風味が爆発する。その後からカラスミの塩気がじわりと追いかけてくる。

そして、「牛肉の点心」。牛スネの赤身をつなぎに使い、アサツキの新芽とタラの芽を包み込む。春の訪れを感じる一品だ。

炒め物は「但馬鴨の北京風味噌炒め」。ロース、モモ、ハートと、部位ごとの味の違いを楽しめる。味噌の濃厚さが鴨の脂に溶け込み、力強い味わいの一皿に仕上がっている。こうした濃厚な料理においても、全体的なポーションの小ささが、その重さを感じさせない設計になっているのも心地よい。

締めには「魯肉飯」。豚バラの脂や内臓の脂を、幾重にも重なる工程で処理し、すっきりと澄み渡る味わいに仕上げている。魯肉飯といえば濃厚なイメージだが、この店のそれは驚くほどクリア。そして軽い。軽さこそが、このコースを完璧に締めくくる要素となっている。

デザートは「バニラ風味杏仁豆腐」と

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「金柑」。

甘さを控え、最後まで気持ちよく食べさせる。

ここまでのクオリティで、この価格設定は驚異的。それゆえに、予約困難になるのも納得。『上深川』は、中華の枠を超え、「技術の極みと、食べる喜びを両立させた一軒だ。ご馳走様でした。

上深川
大阪府大阪市北区西天満4-5-4
https://tabelog.com/osaka/A2701/A270103/27141687/

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