静岡市の丸子宿、豊かな自然に包まれた場所に静かに佇むレストラン『Simples』。
店名の「Simples」は、一見するとこの場所で繰り広げられる料理の数々と矛盾するかのように思える。イタリアンやアジアのエッセンスを織り交ぜた多様なアプローチ、一皿ごとに変化する食材の顔ぶれ。しかし、ここでの「シンプル」とは、ただ簡素であることを意味しない。シンプルに素材のエッセンスを極限まで引き出すこと。 その純粋な旨味の追求こそが『Simples』の核にあります。
シェフ・井上靖彦氏は、焼津の名店「サスエ前田魚店」と深い繋がりを持ち、毎朝行われる恒例のじゃんけんに参加。スペシャリテを除くその日の最良の魚を、他の名店と競い合いながら手に入れる。彼らが掴み取るのは、単なる食材ではなく、その日、その瞬間に最も輝く素材の本質だ。ちなみに、この日最も輝いていたのは、ステーキカットで提供された生の「本メジマグロ」。肉のような食感と魚の持つ野生的な旨味が同居。およそ魚では体験したことのない食感と味わいに驚くばかり。さらに、エシャロットや大葉がその味わいを引き立てておりました。
それでは、そのシンプルで、洗練されたコースの構成をご覧ください
「アミューズ」
漆のプレートに並ぶ5つの小さな驚き。太刀魚を大葉で包みライスペーパーの食感を添えた一品、サザエの甘みと肝のコクを引き立てる一皿、魚のすり身とじゃがいもの滑らかさが際立つバカリャウ、真イカのフレッシュさとタルト生地の甘さが調和する烏賊のタルト、そしてサワークリームの酸味がスモーク鯖の脂を引き締める一品。それぞれが素材の旨味を最大限に引き出し、見た目の華やかさとは裏腹にシンプルな美味しさが際立つ。
「南鮪・鹿コンソメ」
人参のピュレ、南マグロのトロ、鹿の脂を使ったコンソメ。三層の旨味が重なり合うが、最後に感じるのは驚くほどクリアな出汁の旨味。オレンジの香りが全体を爽やかにまとめる。野菜、肉、魚、異なる素材が一つに溶け合う見事なマリアージュ。
「鯵」
泳がせで仕入れた鯵は、サスエ前田魚店の技が光る。厚みのあるぶりんとした食感と透明感のある旨味は、まさに素材の力。山椒オイルがその鮮度をさらに引き立て、大根、こうしんだいこん、ブロッコリー、芽キャベツといった野菜が食感に変化を与える。
「神頭烏賊」
パッパ・アル・ポモドーロを日本的に解釈した一皿。半生の烏賊はソースの濃厚さに負けず、後味にクリアな旨味が残る。アタックには濃厚なトマトの酸味と旨味が押し寄せるが、余韻には烏賊のピュアな旨味が顔を出す。
「エボダイ」
本来繊細な魚を、あえてビール衣でフリットに。デュカ（クミンやコリアンダーなどのミックススパイス）と鱗を混ぜ込んだ衣が、魚の甘さと香ばしさを際立たせる。サステナブルでありながら、味の深みも抜群。
「大浦牛蒡」
通常は天ぷらや唐揚げにすることが多い大浦牛蒡を、チキンブイヨンではなく魚の出汁で炊き上げ。魚へのこだわりが伝わる選択。牛蒡の土の香りと魚の出汁が絡み合い、深みのある味わいに。
「鴨」
天然の鴨をむね、もも、そして皮付きの猪と共に提供。カリフラワーは生のまま添えられ、肉の濃厚な旨味と野菜のフレッシュな食感が対照的なハーモニーを生む。
「石鯛」
乳酸発酵した醤油的な調味料を使い、石鯛の脂の旨味を一層引き立てる。発酵の深みと魚の旨味が絶妙に絡み合う一品。
「蛤とイカ墨リゾット」
蛤の強い旨味とフレッシュなイカ墨を組み合わせ、丸子宿名物の自然薯と黒キャベツで仕上げる。自然薯のねっとり感と蛤のジューシーさがリゾットに奥行きを与え、黒キャベツの素揚げが海苔のような風味を添える。
「バルゼアカカオ」
野生のカカオを使い、乳製品は一切不使用。それでも驚くほど豊かなコクと香りが口に広がる。カカオニブと和三盆の控えめな甘さが、素材の力を引き立てる。サスエの前田さんが乳製品を食べられないことから生まれた一皿だが、その制約すら創造性に変えるのがこの店の魅力。
「苺のデザート」
静岡産の苺を、春菊のカスタードと合わせて。シュー生地の軽やかさと苺の酸味が調和し、へたごと食べるような青さが新鮮な驚きを与える。春菊のほのかな苦味が苺の甘酸っぱさを引き立て、大人のデザートとして完成されている。
『Simples』における「シンプル」とは、決して引き算の美学ではない。素材の旨味を極限まで研ぎ澄まし、その瞬間に最も輝く形で提供すること。 料理の多様なアプローチは全て、この核心に向かって収束していく。静岡の恵みを、シンプルに、そしてダイナミックに表現するこの場所は、食材と向き合う全ての人に新たな気づきを与えてくれるでしょう。ご馳走様でした。
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Simples
054-330-8289
静岡県静岡市駿河区丸子3262-1
https://tabelog.com/shizuoka/A2201/A220101/22041057/