長野県松本市の『ヒカリヤニシ』。訪れた瞬間、そこがただのレストランではないことに気づきます。国の登録有形文化財に指定された、明治時代に建てられた蔵屋敷。その歴史ある建物の中で味わうのは、信州の自然と食文化を詰め込んだフレンチです。名前の「ニシ」は建物の位置に由来し、対となる「ヒガシ」では日本料理が提供されているのだとか。この東西に分かれたスタイルがすでに冒険心をくすぐります。

レストランスペースとして活用されている蔵を進むと、まるでタイムスリップしたかのような感覚に。ここでは食そのものだけでなく、信州の歴史と文化を一皿に凝縮した世界を体験することができます。長野のワインを中心としたペアリングも魅力的でしたが、今回は「ボタニカルと発酵」をテーマにしたペアリングを選択。料理と飲み物、それぞれが信州の多様な顔を映し出してくれるのが楽しい。

「コンソメスープ」
最初の一皿は雉を使用したクリアなコンソメスープ。繊細な味わいの中に深い旨味が広がり、もみの木のオイルが仕上げに香りを添えています。この一皿を口にした瞬間、信州の自然が目の前に広がるような気がしました。

「蕗の薹」
春の香りを感じさせる蕗の薹。フリットの中には自然薯と烏賊をムース状にしたものが包まれています。口の中に広がる蕗の薹の風味と、砂漠塩の絶妙な塩気が調和する一品です。

「職人達」
信州の生産者たちへのリスペクトを感じる料理タイトル。池田町の野菜を中心に、30種類以上の信州野菜とハーブを使用。フレッシュから火入れまで、多彩な調理法で素材の魅力を引き出しています。オシェトラキャビアと肉の旨味を凝縮したソースが全体をまとめ上げています。

「椎茸」
シェフのスペシャリテとして愛される一皿。その主役は、信州の原木椎茸。笠を薄くスライスしてミルフィーユ状に重ね、間に細かく刻んだ椎茸とエシャロットをサンド。ゼラチンを使わず、椎茸の力だけで固めたテリーヌは、グアニル酸の塊と呼ぶにふさわしい味わいです。さらに、いわなの出汁を使ったスープ。いわな特有のイノシン酸が豊富に含まれ、椎茸のグアニル酸との相乗効果で、旨味の深みが何倍にも広がります。

「百合根」
真っ白な百合根をバターでローストし、野菜のブイヨンと合わせた一皿。ゆべしを少しスライスすることでアクセントを加え、バターの香りが豊かに広がる贅沢な一品。

「口直し」
ピュアホワイトを使用したムースに、糖度の高いトマトのシャーベット。ピスタチオのオイルと砕いたものが添えられ、爽やかな味わいと食感のコントラストが楽しめます。

「安曇野鯉」
信州を代表する伝統食材である鯉を、現代的なフレンチの技術で昇華させた一皿。帆立と鯉のムースを白板昆布で巻き、パイ生地で包んで焼き上げることで、鯉特有のクセを感じさせず、上質な白身魚のようなクリアな味わいに仕上げられています。この透明感のある味わいだからこそ、ソースの存在が一層重要になります。そのソースにも鯉の出汁が使用され、料理全体に深みと調和をもたらしています。

「カルガモ」
皮目をパリッと香ばしく焼き上げたカルガモ。しっとりジューシーな身とともに、蜜柑のピュレとシェリービネガーのソースが豊かな風味の広がりをもたらします。付け合わせのタルティーボの根と葉は、ほろ苦さで全体を引き締める役割を果たし、一皿に季節感と調和を与えています。」

「蕎麦粉のクレープ」
チーズのような役割を果たすが、実際にはチーズを使わない一品。ミルクレープ仕立てにヨーグルト、ドライリンゴ、酒粕を組み合わせ、長野の食文化が詰め込まれています。

「人参と金柑」
人参の味わいを活かしたシブーストに、金柑のアイスを添えたデザート。イタリアンメレンゲとカスタードが絶妙なバランスを生み出しています。

「フィナンシェ」
最後に運ばれてくるのは焼きたてのフィナンシェ。一口食べれば香ばしさとしっとり感が広がり、この特別な体験を締めくくるのにふさわしい一品でした。

信州の自然、歴史、文化。そのすべてを食で表現するレストラン。蔵の中でそんな贅沢な時間をぜひお過ごしください。
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ヒカリヤ ニシ
0263-38-0186
長野県松本市大手4-7-14
https://tabelog.com/nagano/A2002/A200201/20002166/