九州の寿司は仕事をしない。絶品の魚がとれる九州では仕事をせずとも美味しい寿司がでるというのは定説だ。江戸前至上主義の人々は他のエリアの寿司を否定しがちだ。そんな人達には是非『天寿し』の寿司を食べて欲しい。価値観が変わりこれが俗説であることを確信できる。
挨拶代わりは大間の220kgの鮪。いきなり意表をつくネタの選択。部位はカマの一番先の部分を使用。丁寧に包丁を入れていたのは筋を処理していたのか。塩で甘みも引き出された鮪は口の中でとろけます。
「天寿し」最大の特徴は大分産のかぼすと塩を使った味付け。ちょっとしたアクセントではなくたっぷりかぼすを絞っている。酸味が効きすぎるかと思えばそうではない。芸術的な味わいは先代が編み出した技だが、天野氏によって完成されたようだ。
飾り切りされた赤烏賊の登場。仕事をしてないというコメントは一瞬にして一蹴される美しさ。甘みが強くねっとりした赤烏賊に色付けする前の純粋な飛子、さらにカラフルな錦ごまがふりかけられる。
ここに例のすだちをたっぷり絞り完成。爽やかな風味がかつて経験したことのない世界に連れていかれる。
半生で透き通るような「車海老」、
ツメでいただくのが珍しい「帆立」なども面白い。
「海老の頭」は炭火の遠火で水分を旨味に変換。酒がほしくなりますね。
そうそう実はここ天寿しにはお酒がない。真摯にお寿司に向き合う店だ。
地元の「鯖」もやはり絶品。ただし、冒頭のように素材だけに頼ることは一切ない。
〆た後に炙りを加えて炊いた昆布や茗荷をかまして立体感のある握りを完成させている。様々な味覚の刺激を作り、なおかつ一体感を保持する「仕事」が行き届いた握りである。
「平目」は肝とともに。これは生涯一平目に認定。濃厚な肝の甘味が紅葉おろしやすだちで急激に爽やかさを手に入れる。肝のコクがたまりません。
「太刀魚」には梅肉添えられる。あらゆるものを調味料に変化させるのですね。こんな鮨はやはり食べたことがない。シャリと同じくらいの柔らかさで一体感を作り上げている。
調味料といえば、粉醤油が面白い。ネタは「鯵」だったが、粉であるがためにその余韻が長く味わい深い。胡麻と生姜もあわせてもはや握りというより1つの料理が完成しているような印象だ。
美しいフォルムの「キス」では九州発祥の柚子胡椒も活躍する。
もっとも感動したのは「鮪の漬け」。づけといっても醤油漬けではない。なんと鮪の出汁につけるのだ。脂と相談して出汁の濃淡を決めるのだとか!ネタの光り方を見てほしい。美しすぎるネタはやはり美味しすぎる。
塩加減が抜群の「真鯛」、オクラをのせた「サザエ」、もう終盤を迎えた「雲丹」とどれも絶品。
特にサザエには驚き。火入れはもちろんなのだが、オクラのとろみが全てを包み込むのだ。やはり、この男。ネタ1つをすべて料理に仕上げようとしているようだ。
最後の握りは「穴子」。柔らかく煮られた穴子はツメで木の芽の香りをアクセントをつくる。女性には半分に切って塩味でも提供。天野さん、モテるだろうな。笑
手巻きはネギトロじゃなくて「海ぶどうトロ」!?なんと海ぶどうとトロをあわせるのだ!海ぶどうの塩気と柔らかさが鮪との一体感を作る。いい意味で海ぶどうの存在感を感じないのが面白い。
九州の寿司は仕事をしない。これを読んでいただいたも同じ感想だろうか?すべてのネタを江戸前の常識ではなく、九州の素材などを活用して1つの料理に仕上げる。天寿しの「天」は、天才の「天」でしょうか。
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天寿し 京町店
093-521-5540
福岡県北九州市小倉北区京町3-11-9
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